木綴のボールペンは、いまのところオンラインショップでのみ販売しています。
そこでいま、ひとつだけ決めていることがあります。同じ樹種と同じ金具色、その組み合わせを、一回の販売で二本以上出さないというルールです。
在庫を増やしたくないという話ではありません。むしろ売り手としては、同じものを何本も並べたほうが効率はいいはずです。それでもそうしていないのには、理由があります。
同じ名前で呼べてしまうことの落とし穴
木は、一本一本まったく違います。
同じ木の、同じかたまりから切り出しても、数センチずれるだけで木目も色味も変わります。片方は落ち着いた縞が通っていて、もう片方は節に近い荒い表情をしている。そんなことが普通に起きます。
それなのに、どちらも「ウォールナットのペン」という同じ名前で呼べてしまう。
ここに落とし穴があると思っています。名前が同じだと、買う側は同じものだと思って選びます。でも届くのは、まったく別の顔をした一本です。
工業製品なら、同じ品番のものはどれを取っても同じでなければいけません。僕の会社員としての仕事柄、その感覚のほうが体に染みついています。だからこそ、同じ名前で違うものが届くという状態には敏感になってしまうのだと思います。
番号は、いまも一本ずつにつけています
木綴のペンには、一本ずつ番号がついています。No.1から始まって、いまはNo.056まで進みました。
一番最初の販売のときから、ずっと続けています。番号は、お届けするカードに手書きで書き添えています。
ただ、つけるタイミングは途中で変えました。
最初の頃は、販売に出す時点で番号を振っていました。この一本はNo.12、こっちはNo.13、というふうに。でもそれだと、もしお迎えいただけなかったときに都合が悪いんです。その番号が空いたままになってしまいます。
なので今は、購入していただいた順に、あとから番号をつけています。
あの頃は、同じ樹種を並べて出したこともありました。同じ「ウォールナットのペン」が二本ある、という状態です。そのときも番号は一本ずつ違っていたので、これは同じ樹種だけれど別の一本です、という意味も込めていたと思います。
一本ずつ違うなら、一本ずつ名前があっていい。番号は、その名前のかわりのようなものです。
番号は、届いたあとにその一本を特定するためのもの。同じ組み合わせを重ねないというのは、買う前に選びやすくするためのもの。
向いている方向は違いますが、たぶん同じところから来ています。
分けているのは樹種ではなく、組み合わせ
だから木綴では、同じ樹種でも金具の色が違えば、並べて出すことがあります。
紫檀にガンメタルの金具と、紫檀にゴールドの金具。この二本なら、見比べたときに違いがはっきりわかります。選ぶ理由が、自分の好みとしてはっきり立つからです。
判断の基準は、樹種が重なっているかどうかではありません。並べたときに、迷わず選べるかどうかです。
写真で売るというのは、比較を代わりにやること
商品ページは、毎回その個体そのものの写真で作っています。イメージ写真は使いません。
本来なら、店頭に並べて手に取って選んでもらうのが一番いい売り方だと思っています。以前SNSで、こういうものは実物を見てもらわないと「思っていたのと違う」が届いてしまう、という指摘をいただいたことがあります。まったくその通りだと思いました。
オンラインだけで売るというのは、その「見て、触って、比べる」という工程を、売り手が代わりに引き受けるということなのだと思います。
写真の撮り方も、並べる順番も、そもそも何を同時に出すかも、全部その一部です。一本できるたびに撮り直して、木目や色味が伝わる並びに直す。地味で時間のかかる作業ですが、ここを省くと届いたときのズレがそのまま残ってしまいます。
似たものは作れても、同じものは作れない
作れる本数に限りがある、という現実的な事情もあります。
ひとつの樹種で本数を作れば、その分ほかの樹種が作れません。それならいろんな木で一本ずつ出したほうが、明るい木が好きな方にも、木目の複雑なものに惹かれる方にも、シンプルな見た目がいいという方にも、届く可能性があります。
そして一本一本手作りである以上、似たものは作れても、まったく同じものは作れません。木のほうに同じものが存在しないからです。
念のため書いておくと、いまの決め方はブランドの信条のようなものではありません。いまの製作本数だから成り立っている、暫定のルールです。番号をつけるタイミングひとつでも変わってきたので、この先も変わっていくと思います。
もっと数を作れるようになれば、同じ組み合わせを何本か並べる日も来るかもしれません。そのときは、そのときの選びやすい見せ方をまた考えることになるんだと思います。
だから、これはいいなと思った一本があったら、そのタイミングで手に取ってもらえたら嬉しいです。次に同じ顔をした一本が出てくることは、たぶんありません。
いつか直接見て選んでもらえる場もつくりたいと思っています。それまでは、画面の向こうで迷わず選んでもらえる届け方を、試行錯誤しながら探していきます。


